湊総合法律事務所

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9.価額弁償

改正前民法下では、原則、遺留分減殺請求権の行使により、当然に物権的効果が生じ、例外的に、侵害者が、遺留分減殺請求権を受けた後に価額弁償の抗弁により金銭賠償を行うという制度設計でした。
 
しかし、民法改正により、遺留分が侵害された場合には、改正前では例外であった、金銭請求(遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求)が認められることとなりました(改正民法1046条)。
 
これに伴い、価額弁償を規定した改正民法1041条は、新民法では削除されています。
 
遺留分制度については、2019年6月30日以前に発生した相続には改正前民法が適用されるところ、改正前民法が適用される事案も少なくありません。そのため、以下では、改正前民法下における、価額弁償について説明致します。
 
<改正前民法>(遺留分減殺請求の名称は、改正により遺留分侵害額請求に改められましたが、以下は改正前民法下での説明ですので、以下では遺留分減殺請求と表記しております。)
 
特定物の贈与ないし遺贈がなされていた場合、減殺請求の相手方は、現物を返還することに代えて、価額で弁償することも許されています(改正前民法1041条)。
 
それでは、遺留分減殺請求を受けた受遺者・受贈者が現物返還義務を免れるためには、価額弁償の意思表示だけをすれば足りるのでしょうか。
この点について最判昭和54年7月10日は、受贈者・受遺者は、単に価額弁償すべき意思表示をしただけでは足りず、価額弁償を現実に履行するか、履行の提供をして初めて現物返還義務を免れるとしています。
 
ただ、ここに1つ問題があります。
すなわち、価額弁償は現実に履行するかその提供をしなければならないわけですが、価額弁償の申し出後の判決で定められた額に、価額弁償として申し出ていた額が不足していた場合には、履行の提供とは認められないわけですから、価額弁償の効果が発生せず、現物返還を強いられてしまうおそれがあるのです。
 
しかし、実際問題として、遺留分額算定の基礎財産について情報を得ていないと、弁償者の方は一体、いくら弁償すべきなのか、その額を算定することができないということがあり得ます。
弁償者が自分としてはこの金額だったら価額弁償額として十分だろうと考えて提供したけれど、判決でそれでは足りないと認定されてしまった場合には、現物返還しなければならないというのでは酷な結果となることもあり得ます。
 
では、どのようにすれば、そういった事態を回避することができるのでしょうか。
この場合、弁償者の提供額が過小だったら、提供額を超える価額弁償額が判決によって確定すれば、速やかに支払う意思がある旨を表明しておけばよいのです。
 
こうしておけば、裁判所は、事実審口頭弁論終結時を算定の基準として弁償すべき額を定めた上、受遺者が弁償すべき額の全額を支払わなかったことを条件として、遺留分権利者の目的物返還請求を認容する旨の判決をすることができますので、不都合を回避できることになるわけです。
ご参考まで、主文の具体例を申し上げますと、「被告(弁償者)は、原告(遺留分権利者)に対し、被告が原告に対して民法1041条所定の遺贈の目的の価額の弁償として○○円の支払いをしないときは、別紙物件目録記載の土地の持分○○分の○○について、○年○月○日遺留分減殺を原因とする所有権移転登記をせよ。」というようにすれば良いのです。
 
<改正民法>
上述に記載のとおり、民法改正により、遺留分が侵害された場合には、改正前では例外であった、金銭請求(遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求)が認められることとなりました(改正民法1046条)。
これに伴い、価額弁償を規定した改正民法1041条は、新民法では削除されています。

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